6月 08, 2023

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電気自動車(EV)が自動車市場で確固たる地位を確立して以来、EVメーカはドライブトレインの高出力化、バッテリの大容量化、充電の高速化に向かって進んできました。顧客の要求に応え、航続距離を延ばすために、EVメーカは車両のバッテリの大容量化を進めています。しかし、バッテリ容量が大きくなると充電時間が長くなります。

最も一般的な充電方法は、自宅で夜間に充電するか、日中に職場で充電することです。どちらの方法も、EVに供給できる電力が異なります。自宅にある家庭用コンセントでは、一晩でEVをフル充電できないかもしれません。職場では、中電力のAC充電ステーションが利用できる可能性が高いのですが、車両に低電力のオンボードチャージャ(OBC)が搭載されている場合は、充電ステーションでの滞在時間が問題になることがあります。OBCの電力容量を増やすと、充電時間は短くなりますが、システムが複雑になり設計上の課題も増えます。ハイパワーDC充電ステーションは、バッテリを容量の80%まで急速に充電できますが、このような充電方法は一般的なものではありません。

充電時間と性能の両方の問題に対処するために、多くのEVプラットフォームは、現行の400Vバッテリパックから800Vバッテリパックに移行しています。車両が運転モードのときには、より高い電圧を利用して電気モータの電力出力を高くするか、同じ電力レベルを維持しながらシステムの効率を向上させることができます。充電モードでは、バッテリ電圧を高くすると、バッテリの充電に必要な電流が減少し、充電時間を短縮できます。OBCの設計に影響を与える2つの重要な要素は、電圧とスイッチング周波数です。電圧とスイッチング周波数を高くすることで、OBCの容量を大幅に増やすことができます。システムアーキテクチャは、高い電圧に対応する必要があり、それが高い阻止電圧能力を持つ1200Vデバイスが選択されるようになった理由です。

メインバッテリパックの800V化へのトレンドに加えて、OBCの電力容量増大へのトレンドも並行して進行しています。過去には6.6kW台のユニットが一般的でした。現在では多くの設計が11kW(分相電源)および22kW(三相電源)となっています。この電力レベルは家庭では対応できない場合も多いのですが、米国では現在126,000以上あるAC充電ステーションを利用できます。高電力OBCの場合、職場や多くの公共スペースでは急速充電が可能なので、自宅にいる間にフル充電にする必要はありません。OBCの電力レベルが高くなるほど、シリコンカーバイド(SiC)MOSFETが有利になります。

SiCベースのコンポーネントは、スイッチング周波数が高いアプリケーションでは、IBGTコンポーネントと比較して有利であることが実証されています。SiC技術は、800Vバッテリへの移行において、絶えず設計上の利点を提供しています。OBCシステムを小型化して、全体的な「Wall to Wheel(壁コンセントから車両まで)」の効率を向上させることができます。

オンセミ(onsemi)は、第一世代の1200 V EliteSiC M1 MOSFETの発売に成功した後、スイッチング性能の最適化に重点を置いた第二世代の1200 V EliteSiC M3 MOSFETを最近リリースしました。M3S製品は、TO247-4LおよびD2PAK-7Lディスクリートパッケージに収納された13/22/30/40/70 mΩデバイスがラインナップしています。NVH4L022N120M3Sは1200Vで最も低いRDS(ON) 22 mΩを持つ車載認定MOSFETです。

当社の担当者は、M1に対するM3Sの主要特性について幅広いテストを実施しました。評価の設定方法の詳細は、このアプリケーションノートに記載されています。M3S (NTH4L022N120M3S)は、M1 (NTH4L020N120SC1)よりも必要な全ゲート電荷量QG(TOT)が少なく、そのためゲートドライバからのシンクおよびソース電流を大幅に低減します(図1 参照)。M3Sでは、推奨されるVGS(OP)= +18V時に135 nCであり、RDS(ON)×QG(TOT)においてFOM(性能指数)係数が従来のM1よりも44%減少しています。これは同じRDS(ON)デバイスで、スイッチングのためのゲート電荷のわずか56%しか必要ないことを意味します。

また、M3Sは寄生容量COSSに蓄えるエネルギーEOSSがM1よりも少ないため、軽負荷時の効率が良いことも利点です(図 2)。EOSSは電流ではなくドレイン-ソース間電圧に依存するため、軽負荷時の効率にとって重大な損失になります。

 

 

  図 1. ゲート総電荷量                                  図 2.  Eoss, Coss貯蔵エネルギー

 

スイッチング損失はシステム効率における重要なパラメータです。図 3 はスイッチング性能を示しています。M3Sは与えられた条件下でスイッチング性能を大幅に向上させており、M1に比べてEOFFで40%、EONで20~30%低く、全スイッチング損失は34%減少しました。高スイッチング周波数アプリケーションでは、RDS(ON)温度係数が高い短所を相殺することができます。

 


  図 3. 誘導スイッチング損失

 

スイッチング周波数を高くすると、インダクタ、トランス、コンデンサなどのエネルギー貯蔵コンポーネントのサイズを小型化でき、結果的にシステムの容積が小さくなります。コンパクトなサイズで電力密度が高いため、OBCシステムのパッケージサイズを小さくすることができ、エンジニアは車両の他の部分に追加重量を割り当てる選択肢が得られます。さらに、高電圧で動作するため、車両全体で必要な電流が減少し、電源システム、バッテリ、OBC間のケーブルコストの削減につながります。

EliteSiC MS3 MOSFETおよび次のOBC設計にSiCを利用する利点については、当社の技術ウェビナー「Adopting Silicon Carbide for OBC and DC/DC Power Conversion(OBCおよびDC/DC電力変換へのシリコンカーバイドの採用)」をご視聴ください。OBCアプリケーションにおけるSiC MOSFET、IGBT、シリコンスーパージャンクションMOSFETの比較について詳細に説明しています。